日本のスタートアップの「弱点」と「大きな強み」とは?

グローバル視点から見る、日本のスタートアップ

グローバル視点から見る、日本のスタートアップ

この記事は、前回(岡本彰彦がHeadline Asiaパートナーに就任)に続き、Headline Asiaによる岡本彰彦への社内インタビューを編集したものです。

日本のスタートアップの弱点

最大の弱点は、学術的に裏付けのあるテクノロジーとビジネスとが結びついていないことです。
ビジネスモデルを重視したスタートアップが多い印象がありますが、そうすると競争優位性を生むポイントが限定されたり、先行優位を保つ期間が短くなってしまうことがあります。強固なMoat(城壁)を築くためには、ビジネスの仕組み、仕掛けに加えて、それらを実現させる確固たるテクノロジーが必要だと考えています。

一昔前、活用可能なテクノロジーがまだ開発されていなかった時代、加えて人々のマインドがまだ追いついてなかった時代において、当時は消去法的に当たり前だと思われていた慣習やしきたりなどが、そのまま今の時代にも据え置かれているものがあります。それらは、テクノロジーを活用して根底から変えていけることが多いと考えています。

そのような観点において、海外スタートアップのテクノロジーを活用して非合理を合理にしていく着想と実行力は秀逸だと思っています。
VeemFundboxLawgeexなど、私が過去に投資してきたスタートアップは、古くはグラフ理論に始まる複雑ネットワークやスケールフリー性をビジネスに実装したものが多く、テクノロジーを活用してincumbentなビジネスを根底からアップデートするようなアプローチでビジネスを成功させています。

日本に上記のようなスタートアップがいないわけではないのですが、テクノロジーの活用を含めた意味でビジネスとしてサバイブしたケースはまだ多くありません。マイナーチェンジではなく根底から変えてしまうというケースが、規制の観点含めて日本にはまだ少ないように思います。
根底から変えていくことが、次の新たな標準化を作ることにもつながるため、先行優位を作りやすいと考えています。標準化はスタートアップに限らず、国際競争において日本が最も弱いところの一つなのでこの点を改善していければと考えています。

日本のスタートアップの大きな強みとは?

日本のスタートアップのように、製品の細部まで高い精度で作りこむことができるスタートアップは、ほとんどないと思います。ビジネス的には裏目に出ることもあるかもしれませんが、ユーザーに優しく、かゆいところに手が届くような配慮ができることは、日本のスタートアップの大きな強みだと思います。

日本のスタートアップの傾向として、ディスラプティブなサービスやビジネスは生まれにくいのですが、生まれたものに対してオペレーションを磨き上げていくことは得意です。なので、海外で生まれた新しいサービスを日本に持ち込み、オペレーショナルエクセレンスなものに変えていくことも一つの手だと思います。ですが最も重要なことは、どのようにそのサービスが仕立てられているのかといった、内側を読み取ることだと思っています。

情報流通のスピードが速くなった今、日本のスタートアップも海外のスタートアップと同じようなアプローチを行いやすくなってきましたのでこの流れを更に加速させていきたいですね。

気になるトレンド、そして次に日本へ来ると予想されるもの

<VC観点>
古くは証券化技術(金融技術)、現在はSPACやローリングファンドなど日本の法規制では生まれにくい着想が資金調達のメカニズムを変革する基盤になっています。法規制以外の部分では、Tiger GlobalやSoftbank Vision Fundの投資手法はVCのあり方を大きく変革させてきています。

これらも古き因習・慣習を所与のものとしないアプローチだと思っていますが、新しきものが全て良いわけではないとも考えています。金融技術の発展がリーマンショックの引き金になったり、現在の新興株式市場の高騰が冷めれば、成長を加速させてきたギアが逆回転する可能性はあるでしょう。

<スタートアップ観点>
2015年前後の先進トレンド、テクノロジー、ビジネスが5〜6年経って花を開きつつあるように思っています。ようやくAI系の会社が利益を出し始めるようになってきましたが、それでもやはり5〜6年が経過しています。

新しいテクノロジーをビジネスに活用できるようになるまでには時間がかかります。そして、ビジネスでの活用方法やそのテクノロジーを使ったビジネスを立ち上げたとしても、そのビジネスを人々が受け入れるようになるまでにもタイムラグがあり、マネイタイズできるるようになるまでに更に時間がかかります。

この二つのタイムラグを理解してビジネスを仕立てていくことが、事業をスケールさせていくために必要だと思っています。このような観点から、かつてシェアリングエコノミーやヒューマンクラウドと言われていたトレンドを引き継ぐ形で、日本でもパッションエコノミーやクリエイターズエコノミーなどの「個人のエンパワーメント」が本格的に開花することを期待しています。

岡本彰彦 Headline Asia パートナー
リクルートホールディングスR&D担当執行役員としてシリコンバレー、イスラエル、インド等を対象としたCVCやAI研究所を創設・運営した他、全従業員を対象とした新規事業提案制度『Ring』を管掌。
MUFGのCVCであるMUFGイノベーションパートナーズでは取締役副社長兼最高投資責任者として投資戦略の立案と実行を指揮した。https://headline.com/team/akihiko-okamoto

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