Headline Asia パートナー Hong Luの経歴は、会社の伝説ともいえるでしょう。ソフトバンクのCEO 孫正義氏とカリフォルニア大学バークレー校の学生時代にアイスクリームショップで出会ったことに始まり(その件についてはこちら)、ソフトバンク・チャイナ・ベンチャー・キャピタルの設立、アリババへの初期投資、中国の先駆的な通信会社であるUTStarcomの設立など、Headline Asiaに参加するまでの彼の道のりはとても魅力的です。
今回は、そんな彼のこれまでの道のりと、その過程で学んだ大切な教訓について、話を聞きました。
あなたがアドバイザーとして数々の投資アドバイスを行う中で、最も重要だと思っているものは?
まず私たちは、ビジネス、市場の可能性、収益性、経営者の能力など、すべてのデューデリジェンスを行い、すべてがうまくいった場合を仮定します。
しかし最も重要なのは、主要なプレーヤー(特にCEO)のバックグラウンドを徹底的にチェックすることです。加えて、私は過去に成功経験があったCEOに投資するようにしています。
キャリアの初めに知っておけばよかったと思うことはありますか?
私は大学卒業後にキャリアをスタートさせましたが、ビジネスの授業は一切受けませんでした。ビジネスの基本的な知識、特に株式保有の重要性を十分に知っておけばよかったと思います。
実際、私の最初の上司は私に自分の株(実際には会社の20%)をくれようとしました。私は、株の代わりに昇給してくれと言いました。当時の私にはそれくらいの知識しかありませんでした。幸運にも、それでも彼は私に株をくれました。そして不運にも、昇給はありませんでした。上司の名前はマサ・ソンです。
日本の市場で最も価値があると思うのは?
日本のスタートアップ企業が世界で競争するためにできることは?そして、彼らがうまくできていることと改善すべきことは?
私は、任天堂やソニーをはじめとする日本の電子ゲーム業界における大きなイノベーションを目の当たりにしました。日本でしか人気のない漫画やアニメを除いた音楽や映画などの他の産業と比較しても、彼らは世界で通用することを証明し、30年以上も成功し続けています。
加えて日本は幹細胞の研究など、医療分野でも、とても進んでいます。これは将来、多くの患者を治療するのに役立つでしょう。他にも、自動車、固体電池技術、ハイテク・セラミック、半導体の基礎原料など、日本がリードしている産業はたくさんあります。
私は今でも、日本は一般的に、ビジネスを行う上で最も信頼できる国のひとつだと思っています。ほとんどの日本企業とは非常に安心して取引ができます。これが最も大きな強みであると私は考えています。しかしその一方で、(日本企業は)決断が遅いこともあります。私は、何もしないよりは、間違った決断をして、後で間違いを正したいと思っています。間違った決断でも、決断しないよりはましです。
また、もっと若い学生が海外に留学したり、大企業ではなくスタートアップ企業で働くようになってほしいとも思います。中国やインドに比べると、日本からの若い学生はあまり見かけません。中国やインドの地方政府がスタートアップに多くのインセンティブを与えているので、多くのスタートアップが存在しています。
技術系企業への投資に対する考え方は、UTスターコム時代と比べてどのように変わりましたか?
私がUTスターコムを経営していた頃は、かなりのハードウェアビジネスであり、参入障壁も高かった。競合他社は意外と少なかったですね。最初の頃は製品のマージンも非常に高かった。私が投資の際に重視したのは 「このビジネスは拡張性があり、利益が出るのか?」ということです。
しかし、今ではすっかり様変わりしています。今となってはハードウェアビジネスは、もはや選択肢ではありません。ソフトウェアが選択肢となり、たとえ利益が出ていなくても投資したいと思っていますが、その企業に強いアドバンテージがあるかどうか、また、その企業に強い実行力があるかどうかを見極める必要があります。やはり、企業は成功にハングリーでなければならないと強く思います。
私自身の投資歴についてお話しします。
2000年から2001年にかけて、ソフトバンクとUTSスターコムの間で、あるインターネット企業に1,800万ドルの投資を行いました。この会社はビジネスに力を入れ続けていましたが、4~5年経っても赤字が続き、さらに資金を調達し続ける必要がありました。
ソフトバンクは投資を続け、UTスターコムは投資をしないことにしました。ある日、この会社が、まだ利益が出ていないのに香港で上場すると言い出したので、我々はソフトバンクに「投資額の10倍で株を買ってください」とお願いしたところ、快諾してくれました。まだ赤字の会社だったので、素晴らしいリターンだと思いました。
するとどうでしょう。最終的に、この会社は黒字になり、我々がソフトバンクに株を売った価格の400倍でニューヨーク証券取引所に上場することになったのです。
そう、これがアリババだったのです。私たちは大きなリターンを逃し、本当に貴重な教訓を得ました。
最近では、特にFinTechやAI、物流などさまざまな分野で、ユニークな新しいビジネスモデルを目の当たりにすることが多くなりました。
VCが持つべき最も重要な特性は?
計算されたリスクを取り、単に投資するだけではなく、投資した会社の業績を定期的にサポートし、チェックし続ける姿勢です。
これまでを振り返って、ご自身のキャリアの方向性を決定づけた大きなターニングポイントは何ですか?その重大さを、当時はどのように考えていましたか?
これは難しい質問ですね。もしもう一度チャンスがあるなら、役員と妥協することなく、自分の道を突き進んでいただろうと思います。取締役や主要な経営陣を説得する方法を学ぶべきでした。自分の決断にもっと自信を持ち、その情熱で役員を説得すればよかったと思います。
2000年初頭、UTスターコムはパナソニックとの中国でのモバイルインフラWCDMAのジョイントベンチャーに3年間取り組んでいました。
私たちが作った基地局は通信業者にテストしてもらうと最高だと言われました。ただ、中国は当時まだ3G市場を開いておらず、そしていつ開くのかも誰も知りませんでした。取締役会から「いつ」と聞かれると、私は「わからない」としか答えられませんでした。
パナソニックの取締役会は、すでに投資を継続することに同意していましたが、我々の取締役会はそれを断りました。その直後、ソフトバンクが日本でキャリア事業を始めることになったのです。
私たちの関係があれば、ソフトバンクの主要なサプライヤーになることができたはずです。ただ、私は取締役会を説得するのに十分な努力をしませんでした。これは本当に残念なことで、結局私は日本を訪れ、パナソニックに合弁解消の理由を説明しなければなりませんでした。
もし、あと一年続けていたら、歴史は大きく変わっていたでしょう。数十億ドルのビジネスチャンスを失ったのに対し、あと1年の投資額はおそらく5千万ドル以下だったと思います。
もう1つあります。私たちは、GSMやCDMA(第2世代ワイヤレスソリューション)が普及するずっと前から、ワイヤレスソリューションを探していました。私たちの主な目的は、中国の電話加入率の低さを解決することでした。90年代、中国の電話加入率は10%にも満たなかったのです。それを解決するために、私は日本にあるパナソニックワイヤレスのR&Dセンターの門を叩き、責任者に会いました。そして、GSMやCDMAよりもはるかに安価な技術を提案してほしいと頼みました。
要するに、パナソニックに我々のスペックで作ってくれと頼んだわけなのですが、しかも日本側の彼らのソリューションとは全く違うものでした。
パナソニック コミュニケーションズの社長は、「どれくらいのユーザーを獲得できるか」を尋ねてきて、私は「少なくとも25万人の加入者を獲得できる自信がある」と答えました。そして、1,000万ドルのプロジェクトを進めることに同意してくれたのです。結果、6〜7年後には5,000万人近くの総加入者を獲得し、その間の総収入は50億ドルを超えました。このパナソニックによる1,000万ドルの投資が、当社のIPO成功につながったのです。