免責事項
本記事は法的アドバイスを提供するものではありません。
150社へのトークン投資を行ったクリプトVCによるSAFT解説
目次
- はじめに
- テンプレート
- 具体的な条項
- 日本で使えるトークン発行に係る契約書
- 最後に → 告知です!(笑)
はじめに
海外ではトークンを活用した資金調達と新しいビジネスの創出が盛んになっています。弊社のクリプトファンド、Infinity Ventures Cryptoもその時代の波に乗って、ここ一年弱で約150社のスタートアップにトークン投資を行ってきました。
一方で、日本は他国よりも厳しい法規制と言語の壁などが理由で、遅れを取っているとも感じています。弊社は日本におけるプレゼンスを持っている数少ないクリプトVCの一つではありますが、残念ながら日本国内の出資先はクリプトファンド全体の約1割しか占めていません。
弊社は、日本発のスタートアップによるトークンを用いた資金調達を活性化するため、様々な点で努力しました。成功事例を自ら作り出すために、共同創業者として「YGG Japan」の立ち上げを行い、Skyland Venturesと森・濱田松本法律事務所パートナーの増島先生と共同で日本版「トークン付与覚書」の公開も行いました。
この記事では、ここ一年のSAFTやToken Warrantがどのようなものになっているかについて解説します。数年前に弁護士事務所Cooley社のパートナーが出した初代SAFTからかなり変わってきています。(未だにそのバージョンのSAFTで海外投資家からトークン調達をしようとすると、例え最先端のプロダクトを開発していても、時代遅れだと思われてしまいますので、気を付けましょう!)
テンプレート
「解説はしなくていいので、SAFTのテンプレートだけシェアしてください」と言いたい方も多いと思いますが、残念ながら本記事ではテンプレートは共有できません。
というのも、Cooley社が公開したバージョンは当時のアメリカの法規制に合わせて作られたもので、その後TelegramやKikの裁判が起き、そのバージョンのSAFTは実質、アメリカでは使えないものになりました。(使用すると、SECに有価証券にあたるセキュリティトークンを販売したとみなされる可能性が高いです。)また、アメリカの法律に合わせて作られたものなので、他の海外でも使われていません。
結果的に、ここ1〜2年のトークン調達で使われている投資契約書はケースバイケースでそれぞれ違うものになっており、国や主要投資家によって異なる条項が入っていたりします。
ただ大きく分けて、アメリカ方式とSAFT方式の二種類があると考えます。
アメリカ方式:SAFE + Token Warrant
- サイドレター的なものとして、「トークンワラント(Token Warrant)」を締結し、「もし発行体が今後トークンを発行したら、投資家はそのトークンをもらえる」という旨を記載します。
- 考え方としては、万が一今後SECに呼ばれたとしても、あくまで「今まで通りにエクイティを使って資金調達をしています」と説明できるようにするのがアメリカ方式です。金額が大きいラウンドでは、優先株の発行が伴うSSA/SHA + Token Warrantの方式を取るケースもあります。
- アメリカ以外でも、規制当局がアメリカのSECと同じスタンスをとっている国で法人登記しているスタートアップも、この方式で契約書を締結することが多いです。また、クリプトの世界では珍しいですが、投資家側がエクイティをどうしても保有したいケースも、この方式になります。
- Skyland Venturesと増島先生と共同公開した「トークン付与覚書」もこの方式に近いです。
SAFT方式:SAFTのみ
- 投資家はエクイティやエクイティに転換できるものを一切取得せず、トークンを取得できる権利のみに係る契約書となっています。
- 発行体となる法人のエクイティは、ファウンダーが全部持っているのが多いですが、基本的にはエクイティによるエクジット(例えばIPO、M&A)はしないと考えるのが一般的です。発行体が株式会社ではなく、「Foundation」、「Association」、「Partnership」の形態にしていることもよく見られます。極端なケースでは、リーガルエンティティがなく、インターネットとブロックチェーン上でしか存在していない組織になっているケースもあります。
たまに間違った認識をもっているスタートアップがいますが、「Token Warrantはよりシンプルな契約書になっているので、トークンエコノミックスなどがまだ固まっていない時はこちらを使うが、具体的なトークンエコノミックスが決まっていたら、より複雑なSAFTの方を使う」というのは本質的な違いではなく、本質的な違いは、契約上、投資家からエクイティで資金調達しているテイにするかどうかです。
また、どちらの方式をとっても、基本的には契約書にサインした時点では、まだトークンを発行しないため、投資家にはトークンを実際に渡したりしません。将来的にトークンを渡すことについて、当事者間が合意するための契約書です。
具体的な条項
上述の通り、条項はケースバイケースで異なるので、ここでは一般的な条項について紹介していきます。また、Token WarrantとSAFTを使う場面は違いますが、条項は基本的には似ているので、合わせて説明します。
投資条件
- 具体的にはトークン価格、出資額、トークン発行量となります。
- ほとんどのプロジェクトは投資家と話す前から、トークン発行量を決めており、そのうちの何%分をIDO・IEO(Initial DEX Offering・Initial Exchange Offering)する前の資金調達で投資家に渡すかを決めています。
- エクイティファイナンスでは新しいラウンドで新株を発行し、既存投資家の持分をダイリューションさせますが、トークンファイナンスではダイリューションが起きません。出資額をトークン価格で割れば、トークンが何個もらえるかが分かります。それをトークン発行量で割れば、全体の何%を持っているかが分かります。トークン発行量はスマートコントラクトで変えられないようにします。
トークン発行日
- 最近はIDO・IEOする日にトークンを発行するケースがほとんどです。
- 契約書には、いつまでにトークンを発行するかという期限を記載します。また、どういう条件を満たせば、その期限を延期できるかも記載されます。例えば、SAFTラウンドで$ xxx以上調達できていれば、発行体側の判断で最大xx日の延期をⅹ回までできるとします。
ロックアップ・べスティング(Lock-up・Vesting Schedule)
- Lock-up期間もVesting Scheduleも、トークン発行日からカウントしますが、最近はIDO・IEOする日にトークンを発行するケースがほとんどです。契約締結日からカウントするものではありません。
- Lock-up期間とは、トークン発行日以降、投資家がトークンを売却してはいけない期間のことです。IPOでもよく使われるコンセプトです。ケースバイケースで異なりますが、Lock-upがないケースもあれば、2年になっているケースもあります。一般的には、数カ月から1年の間になっています。
- Vesting Scheduleとは、トークン発行日以降、投資家がトークンを売却できる権利が少しずつ付与されていくスケジュールです。従業員向けのストックオプションでもよく使われているコンセプトです。Lock-up期間後の1年間において、十二分の一のトークン売却権を12回に分けて、もしくは四分の一のトークン売却権を4回に分けて付与するのが一般的です。ただ、投資家に一定の流動性を与えるために、トークン発行日に投資家が持つトークンの3~5%を先にVestingさせるケースも結構一般的です。また、Vesting期間中に毎回同じ量のトークンの売却権を均等に付与してもいいですが、例えばトークン発行日の6か月後に一括で50%の権利を付与し、残りの50%を、次の10カ月で毎月5%のペースで付与することもよくあります。この最初の6か月目を「Cliff」と呼んで、この方式をCliff Vestingと呼ぶことが多いです。
- 本来は、IPOと同じように、トークン発行日にトークンを全部投資家に渡し、Lock-upとVestingは各投資家が契約書に従って守るのが理想的なオペレーションですが、契約を無視して先に市場で売り逃げしてしまう投資家がいますので、最近ではVestingスケジュールに合わせて投資家にトークンを渡すことが一般的です。
- また、プロジェクトの創業者チームは投資家以上にプロジェクトにコミットするのが一般的ですので、投資家よりもLockupとVestingが長い期間になっていることが多いです。
送金・トークン受取
- 送金の実行期限:契約締結日から1~2週間以内、もしくは具体的に「何月何日まで」という書き方が一般的です。
- 通貨:米ドル、USDT、USDC、DAIが一般的です。スタートアップ側が選択肢を提供し、投資家側がそこから選ぶのが一般的です。また、投資家自身がトークンを発行しているクリプト企業の場合、自社のネイティブトークンを使うこともあります。
- 送金先アドレス・投資家側のトークン受取用アドレス:アドレスをそのまま貼り付けるだけですが、「どのチェーンのアドレスか」は要注意です。SOLANA上で発行されたトークンなのに、ERC-20のアドレスを記載していまい、結果トークンを受け取れなかったケースがあります。同じように、送金先アドレスがERC20のものでないケースもあります。
この先の条項について理解するには、一旦エクイティファイナンスにおける常識を忘れて頂く必要があります。エクイティファイナンスでは、投資家は優先株を取得し、それに情報取得権や先買権、共同売却権、優先残余財産分配権など様々な優先株主としての権利がついているのが一般的ですが、トークンファイナンスでは、投資家のトークンには特別な権利がついていないのが一般的です。
エクイティファイナンスにはあるが、トークンファイナンスではない権利
- 残余財産の優先分配権、希薄化防止条項、役員指名権、優先取得権、優先買取権、共同売却権、売却請求権
トークン契約書で明記しない権利
- 特別な権利はないが、他のトークン保有者と同じく、投票権や提案権などはあります。ただそれはトークン契約書では明記せず、ホワイトペーパーで説明し、ホワイトペーパーのリンクを契約書に参考として入れるのが一般的です。
表明保証(Representations &Warranties、レプワラ)
- エクイティファイナンスでは、「デューディリジェンスその他の調査において発行会社側が提出した資料の正確性」や「本契約の締結・履行に係る法令等の違反の不存在」、「重要事実の欠如の不存在」などを、発行会社が保証し、表明保証違反を含む契約違反が発生したら、発行会社(特には経営株主まで)が損害賠償責任を負います。
- トークンファイナンスでは、あまりにも法規制がまだ追いついてきていないので、TelegramやRippleのように規制当局と裁判になる可能性が大いにあります。よって、現時点のトークン契約書ではむしろ投資家側が表明保証する内容が多く、例えば「トークン投資における訴訟リスクに対する理解」、「トークンに関する税法やその他法律の遵守」などは、投資家側が努力して守る必要があります。
- 余談ですが、「発行会社側が提出したピッチ資料は正確でないことへの理解」を投資家として表明保証することを求められたケースがありました。言い換えれば、ただの詐欺だとしても、投資家としては「詐欺だと理解している」と表明しなければならないです。また、SAFT自体が3~4ページしかないのに対して、投資家側の表明保証だけで3ページぐらいになっているケースが多々あります。
- (日本ではトークン投資ができる投資家が少ないので、こういう風になっていませんが、海外ではトークンファイナンスにおいて、投資家側がスタートアップと比べて、圧倒的に立場が弱いです。。。)
その他条項
- 情報取得権:財務諸表などは基本提供されず、毎月一回のレポートなどが一般的です。
- 返金:上述の通り、基本的に投資家側には何も権利などはありませんが、一つだけ投資家に優しい条項としてよく入っているのは、「トークン発行日期限までにトークンを発行できない場合、残余財産を投資家の出資額に比例して分配する」という返金条項が入っています。正直、延期しようと思えば、トークン発行日は結構いくらでも延期できてしまいますが、そもそもスタートアップ側がもうこのプロジェクトに興味をなくし、次にやりたいことを見つけた際にトリガーされる条項です。エクイティと違って、新しいことをまた同じ発行体でやるよりは、全く別のプロジェクトとしてやり始めるのが一般的です。
- 関連組織への譲渡:Lock-upやVestingが解ける前は基本売却も譲渡もできませんが、関連会社や関連ファンドに譲渡することを例外とすることが一般的です。
- KYC・AML:エクイティファイナンスでは銀行がKYCをしているので、わざわざ契約書に書きませんが、トークンファイナンスではそういった中央集権型の金融機関を通さずに送金することが多いので、KYC・AML認証に協力することをクロージング条件とすることが一般的です。実際KYCプロセスを期限内に完了できず、出資できなくなってしまうケースがよくあります。
- プロラタ条項:かなり珍しい条項で、弊社ファンドの百社以上の出資先の中でも数社しかこれを入れていなかったですが、「投資家は発行会社が発行する全てのトークンのプロラタ分をもらえる」という条項です。例えば投資家が最初のトークンプロジェクトに出資し、そのトークンの1%を取得したとしたら、発行会社が次に発行するトークンの1%も、追加投資なしでもらえるという条項です。ただ、上述の通り、トークンの世界ではプロジェクトごとに新しい発行体を立てて、別途トークンファイナンスを行うことが一般的です。
日本で使えるトークン発行に係る契約書
上記では、あくまで海外で使われている契約書について説明しました。
日本では暗号資産に該当するトークンを投資家に販売するには、発行体自身が暗号資産交換業者として金融庁に登録するか、もしくは暗号資産交換業者を介してトークンを上場させるしかありません。前者は登録のハードルが高く、普通のスタートアップは到底できません。後者はほぼIPOと同じぐらい、審査にかかる時間と労力がかなり高くなっています。
一方で、考え方として決してよくないですが、いくつかグレーゾーンになっているところがあります。
例えば、「国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行うには、暗号資産交換業の登録が必要」とされていますが、日本人のファウンダーが海外法人を立ててトークンを発行すれば問題ないのか、暗号資産に該当するトークンを暗号資産であるUSDT・USDCと交換したら問題ないのか、暗号資産そのものではなく、暗号資産に転換できるトークン予約権のようなものであれば問題ないのか、今のところ、どれも明確には答えが分かりません。
法規制は簡単に変えられませんが、民間の力でできることは全部試した方がいいと思います。Skyland Venturesと森・濱田松本法律事務所パートナーの増島先生と共同で日本版「トークン付与覚書」を公開しましたので、トークン付与が伴う資金調達を是非ご検討してみてください。
最後に → 告知です!(笑)
Headline Asia(旧Infinity Ventures)は今年、
Web3.0に特化したイベント「IVS Crypto」を初開催します!
Animoca、Polygon、YGGなど海外の経営者・投資家を数多く招待します(コンテンツの多くは英語になります)!
2007年から毎年開催している「IVS」も隣の会場で同時開催します。
【 開催概要 】
日 時:7月7日(木) - 8日(金)
場 所:沖縄県那覇市国際通り付近
参 加:300-500人を想定
【 IVS Crypto 会場 】
7月7日(木) ホテルコレクティブ 他
7月8日(金) ホテルコレクティブ 他
【 IVS2022 NAHA 会場 】
7月6日(水) COZY BEACH CLUB 他
7月7日(木) なはーと・COZY BEACH CLUB 他
7月8日(金) なはーと・COZY BEACH CLUB 他
【 注意事項 】
・オフラインでの開催となります。
・申込者上限に達した場合、申込を終了する場合がございます。
・感染症の状況等に応じて一部開催場所、開催形態を変更する場合がございます。予めご了承ください。
【参加申込方法】
・IVS NAHAとIVS Cryptoは招待制のイベントとなっているため、まずは推薦フォームからご登録ください。
・推薦フォームはIVS過去参加者やIVS運営の指定した紹介者が記入し推薦する形式となっております。
・自薦も可能です。その場合は自薦の旨を推薦、被推薦者の項目に記載ください。※その他コメントの項目にて経緯など記載いただけると助かります。
・フォーム登録後、IVS運営が審査させていただき、招待の可否についての正式なご連絡させていただきます。招待メールに本登録フォームが記載されます。
・参加費についても、フォーム登録後にご連絡させて頂きます。また、交通費・宿泊費は自己負担となります
【IVS Crypto 新規参加者推薦フォーム】
https://forms.gle/t4j5kabcB8UyKjwm7
【IVS2022 NAHA 新規参加者推薦フォーム】
【その他応募フォーム】
運営メンバー募集:https://forms.gle/1DWmgCsUbWUe3YRo6
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